「はやぶさ」講演会

昨日、「はやぶさ」の小惑星探査で有名なJAXA川口教授の講演を聴講しました。
要旨
小惑星探査プロジェクトは地球引力圏外の天体に着陸して地球に帰還する往復飛行を可能にする工学技術実証を目的として行われた。「はやぶさ」の名は、鳥の名から連想された。
実証を目指した技術は5つ。
1.イオンエンジン
2.自律航法(片道通信時間17秒なので、地球からの指令が行き届かない)
3.標本採取
4.カプセル回収(カプセル単体には推力を与えられないので深い角度で突入)
5.低推力機関とスウィングバイの併用
イオンエンジンはキセノンイオンを使用(推力は分子量の平方根に比例)、イオンはマイクロ波プラズマで生成(低効率だが電極なく長寿命)、1.5keVで加速、30km/sで噴射(燃焼エンジンは3km/s)、燃料1/10で推力確保。
プロジェクト開始のきっかけは、小惑星探査をNASAと共同研究していたときに、小惑星ランデブー(接近して観測して帰還)の実行を先にやられたこと。NASAもためらう計画としてスタートした。実際、はやぶさが帰還してカプセルを回収したときはNASAが沈黙した。
小惑星での試料採取の意味は、地球の起源を探ること。地球などの丸い天体は内部が高温で溶融している。ミルク液滴の表面に地殻という膜が張っているようなもの。小惑星は丸くないので溶融していない。つまり形成当初の状態が保持されている。


2003年に発射、イトカワに着陸成功。しかし、2回目の着陸時に破損して燃料漏れ発生。燃料は漏洩と凍結を繰り返し、漏洩時の反動のため姿勢制御不能となり太陽電池パネルからの電力供給も途絶えて交信も不能に。また、一旦は試料採取のための弾丸発射に成功したと発表してしまったが、実は失敗していたことが後で分かりやむなく訂正の発表。このような悪いことを発信する責任はリーダーが負うしかない。
しかし、このようなどん底の状況でもメンバーは「ゴールは地球」という目的を共有していた。制御不能だが、いつかは立軸回りの回転に落ち着くことは設計上確実だった。落ち着けば太陽電池パネルが受光して電力供給を再開するはず。しかし時間との戦いがある。年度末でプロジェクト打ち切りの恐れもあった。
はやぶさが再起動している可能性に賭けて通信確立を目指す。しかし温度制御できていないためクオーツ周波数が変動しており通信周波数が不明。総当たりで周波数探索を実施した。全て当たるには1年はかかる。
なかなか応答しないはやぶさに現場の士気が低下。鼓舞するために、リーダーは解の可能性を示し続けた。現場の活気を示すために、ポットのお湯を毎日沸かしなおして「開店中」であることをアピールする細かい気配りもした。
7週間後、通信が確立。ビーコン(1bit)通信ではやぶさの状況を着実に把握し、イオンエンジンを起動して姿勢制御を可能にした。イオン燃料不足もあったので太陽輻射圧力も利用して節約した。しかし、イオンエンジン2台の寿命がくる。あと4ヶ月もてば地球に帰還できるのにここで寿命か、と運命の残酷さを感じたという。
ここで奇策を発案。イオンエンジンはイオン源と中和器からなるが、1台のイオン源ともう1台の中和器が生きていたので、それらを組み合わせて動かした。このような運用ができるように設計していたのはファインプレー。中和器の方が弱いので「中和神社」の御札を買って祈った。しかし、これは人事を尽くしたからこその神頼みである。ただ、神頼みしてもダメ。運を拾うためには、それに集中することが必要なのである。
ロックアップや熱破壊のリスクを何とか回避して地球まで帰還。そしてカプセルを発射してはやぶさは役目を終えた。しかし故郷に帰還したはやぶさに地球を見せたいという気持ちで残り少ないパワーで地球の撮影をさせた。プロジェクトとは関係ないことではあったが、メンバーの気持ちがそうさせた。